日本銀行と政治 上川龍之進

On 2015年5月29日, in 政治・経済, by admin

日本銀行と政治       上川龍之進

日本銀行と政治-金融政策決定の軌跡 (中公新書)

必読の一冊!思わずそんな感想を漏らしてしまう。
小泉政権以降に覚えた金融政策の不安を論理的に説明してくれる一冊だ。昨今の経済政策の中心はデフレ脱却にあり、政治と日銀が一体となって進めている。日銀の独立性なる言葉はすでに消えている感じさえする。
 
 2015/05/26現在、122円台後半となり7年10ヶ月ぶりの安値を更新している。だが同日の日経新聞によると「円安は日本企業の輸出競争力を高めるものの海外経済には不透明感が強い」だが「海外生産シフトが進み、円安が貿易収支を黒字に押し上げる力は弱まっている」と記述されている。また黒田総裁は24日「原油価格下落の影響で、夏にも物価上昇率がマイナスに落ち込む可能性が高い」との発言もある。原油高を除いた物価上昇はどうやら難しいということがここからも見える。

 為替の円安、原油上昇によって物価は上昇し名目成長率は上がる。そのことが消費者心理を好転させ経済を回復させる。知識不足なのか、私はこのシナリオがどうも腹落ちしない。企業業績が伸び、給与が上がってもはたして消費をするだろうか。物価が高いという理由で消費を削減しないだろうか。もっと心の描写を読むことが大切ではないのか

 この数年上げ潮基調は日経平均マジックに過ぎないように思っている。日経平均は20800円だ。雑な捉え方だが、民主党政権の最安値が7095円。安倍政権の3年で約3倍に膨れ上がっている。1985年〜89年のバブル期も約3倍であり、スピードだけを見ればバブル株価のようにも見える。時価総額も既に市場最高値である。日経平均の上昇は内閣支持率にも影響を及ぼし政権安定性からは重要な指標である。政権運営と株価の関係を示唆する知識人もいる。

 小泉政権は長期的な視座が見えていた。民主党は何も見えなかった。いまは長期的な不安を感じてならない。国家運営のリーダーシップとしてネガティブな発言はできないだろう。だからこそ厳しさを踏まえているという行間を政治に求める。厳しさを踏まえた長期的視座。そこには日銀独立性の担保が求められるのではないか。

 本書は日銀の役割などを押さえたうえで、速水総裁から今にいたるまでの記述だ。私は記述に精緻生と強い信頼を覚える。独立性が重要であることは政治も官僚も日銀の共通意識だと思うのだ。それを踏まえても政治や官僚が、ここまで関与せざる得ない現実。短期的視点で行わざる得ない何かがあるのでないのかとさえ感じてならない。

 たとえば昨今も話題となっているが、バーゼル委員会が国債保有に対し資産積上げなどとなったら引き受けてはもはや外国や日銀の他にない。予算の削減が困難であり政治が選択できない事は、先般の大阪の住民投票で明らかだ。

 本書の趣旨とは違うが「ここまで関与するのはなぜか」知る事のできないリスクがあるのではないか。そんな視点で本書を読むことも面白い。読み応えのある一冊だった。

最後までお読み頂きありがとうございました。

日本銀行と政治-金融政策決定の軌跡 (中公新書)

 

反米の招待  冷泉彰彦

On 2015年5月21日, in 政治・経済, by admin

反米の招待  冷泉彰彦

21世紀の日本最強論 (文春新書)

 TVを始めとしたメデイアへの政治関与。またセミナーなどでは国内メデイアの発信情報は歪んでいるなどとの発言も多い。Newsweekは日本の情報統制は中国並み(http://www.newsweekjapan.jp/newsroom/2010/08/post-139.php)  などの記事もある。
 過日大阪市で市制度の住民投票があった。さまざまな分析がこれからされるだろうが、地域や年齢で2分されたことを間違いないようだ。ざっくりした切り口だが、情報を自ら取得し様々な角度から考察するグループと大衆メデイアから情報を取得して考察するグループに分類をすることができないだろうか。TwitterやFacebookなどでの意見表明を見る限りこうしたことを感じる。

 我々が得られる情報は歴史教科書でさえ一本化していない。様々な歴史事実も解釈が違う。決して改憲への考え方ではないが、これまでもGHQが8日間で現憲法を作ったと言われている。しかし終戦後日本をどうするかについて、終戦以前に十分検討されていたことはその後の対応を見れば明らかである。しかし社会的立場のある方々がTVなどのメデイアで発信すれば事実が作り上げられる。こうなるとなにが真実か見極められなくなるのでないだろうか

 日本は法律が改正され世界との関係構築が変化する可能性がある。日々刻々と変化する中で前記した住民投票のように政治に参加する機会があるのかも知れない。そのときに我々はコンセプトと情報から判断をすることが求められる。
右派と左派の政治概念が違うことは誰でも知っている。しかし右派的思想の中で親米と嫌米に右派が分かれると思われるがどう捉えるべきなのだろうか。
 
 本書は嫌米右派として石原慎太郎を始めとした青嵐会の面々をあげている。実に理解ができる。東京をはじめ都市は焼かれ、原爆を落とされ、戦後統制下に置かれた。だが原爆投下の指令官であるカーチス・ルメイに勲一等旭日大褒章を授与した。
 戦後は財閥解体、公職追放、3Sによる弱体化により國体から遠ざけられ、本書は日本の保守本流は「イデオロギーのニュアンスは希薄であり、極めて現実主義的に日本の成長を促進する」ものと論じる。本書によれば一部にイデオロギーを軸とした方々はいるが、保守≒右派という考えに基づけば嫌米保守ではないようである。我々は何をもって保守と定義すれば良いのだろうか。

 理念より経済が優先されるように感じる日本。豊さ追求は否定しない。だが課題を後世に残すことは許されない。日米同盟を理念無き同盟と述べる。中国との確執、財政問題から日本が自前の軍隊の保持は困難であるとし、米国による安全保障以外は難しいと述べる。それにも関わらず民主党政権は、インド洋供給問題、沖縄基地の県外移転を示し不要な不信感を抱かせた。イデオロギーのつながりがない関係の難しさを感じる。

 米国にとっての日本の価値とはなにか。中台関係問題、北朝鮮、ロシア、南シナ海問題など地政学的価値と2位の半分とはいえ世界3位のGDPだ。だが「日米関係の疲労感」の存在を示唆する。長期間のデフレ、膨らむ国家債務、労働者レベルダウンなど日本の国力の弱体化は明らかだ。著者は、疲労回復≒経済回復日米関係の継続の要件と示唆する。経済価値が片務関係の条件であることを改めて感じる。

 片務契約の側面には地位協定の問題がある。暴行など問題は沖縄に限らない。逮捕や引渡、裁判の権利が平等とは思えない。だが著者は両国の司法の違いを示唆する。逮捕から判決までの勾留、接見禁止、密室での取り調べなど人権の担保不足が地位協定を難しくしていると述べている。日本側に言い分はあろうが改訂は難しそうだ。

最後までお読み頂きありがとうございました。  藤田

 

私は朝日新聞読者だ。また体制側である日本経済新聞の読者でもある。他も新聞も読む事はあるが購読はこの2紙であり概ね目を通すことにしている。朝日新聞読者は左翼。こうした括りをする人もいるがあまり正しいとは思えない。
 右翼、左翼のイデオロギー違いは社会保障制度や労働者支援に軸足を置くか、個人主義を主張するかの違いだ。本来個人主義の主張である自由民主党が経営者に分配を求めるのであるから、こうした主張でないメタファーが求められるのだと思う。

 朝日新聞は左翼なのか。また紙面が左翼的思想で執筆されているのか。この疑問の答えを探すべく本書を拝読した。本書の主張をすべて受け入れなくとも左翼的組織文化が朝日新聞内にないであろうことは伺うことができた。そもそも意思決定に文化が反映されていないからだ。

 組織崩壊による事件が大きく2つ取り上げられている。福島原発の吉田調書と従軍慰安婦強制連行記事の問題である。まず福島原発•吉田調書入手後はピューリッツアー賞が目的あり「所長命令違反 原発撤退」「所員に9割」は目的にそったエッジを効かせた見出しにすぎなかったというからお粗末である。なぜこうした勇み足をおこしたか。原因は出世にあると本書では述べている。また調書提供者が提供者に批判的記事を書かないことを条件に提供したとの意見もあるようだ。

 メデイアは事実に忠実に多様な角度から発信しなければならない。そのうえで評価をうけるべきだ。TVや新聞のような大型のメデイアは自社内に限らず他社と相互牽制する必要があるのではないだろうか。

 本書は組織の観点から発信をしているがどちらかというと個々の記者の責任でなく少数の個人と企業の責任だとしている。これでは自己弁護になるのでないか。本で発表する前に一層の社内改革が求められるのではないか。スポンサー減によるメデイアの減少。2000年頃の銀行のようにならなければよいのだが。

メデイアの実態を知るには手頃な一冊ではないか。

朝日新聞 日本型組織の崩壊 (文春新書)

 

孫正義秘録 大下英治

On 2015年5月6日, in 経営者, by admin

著者がどう孫正義を描写するかに興味を持ち購入。著者の人物描写にこれまでどれほど入れこんだかわからない。政治への関心が高まったのも著者によるものだ。
 これまで孫正義を論じた著作は多い。私自身すでに10冊以上を読んでいる。何故か!まぎれもなく孫正義フアンの一人なのだ。孫正義の息づかいが聞こえるような描写をもとに、起業から今日までを3つにわけ捉えてみる。ひとつ目は、起業直後の過激な投資と成功そして大病、2つ目がM&AとSBI北尾氏との出会い、最後が世界戦略 この3つの時期に感じられた印象をまとめてみる。

 ひとつ目のキーワードは熱さだ。
 約1年間“何の事業を起こすか”を考え続けることだ。自分が生涯かけられること何か、どのように環境が変化をしても勝てることは何か、利益が上がることはなにか。全部で25項目にも及んだという。
 起業を考える人と接することがあるが、こうした角度から考察を重ねる人を見かけることはない。自分自身もそうだ。本書には記載がないが“熱中できること”という項目があるのではないか。この時期に限らないが本書を通じて触れると火がつくような熱さを感じる。これまでの経験だが、勢いがある経営者は総じて熱い。自ら発火しているのではないかと思わせることがある。
 決して熱さから思考は鈍らない。著者はIT,金融と孫正義は教示したそれぞれがプロレベルと評したことを述べている。なぜそうなれるのか。徹底した論理思考plus感性だと思うを求める。これも熱さと集中がなせる技か。

 2つ目は意思決定だ。
 ものすごく色々なことをしているが、M&Aを取り上げてみる。成功のM&Aは数多く書かれているが、この起業、実は撤退している事業も数多い。古くはテレビ朝日や衛生放送、またナスダック、あおぞら銀行などがある。リスクマネージメントの詳細はわからない。株式投資は、高値買いと損切りでは損切りの決断のほうが難しい。 “撤退”の意思決定を幾度も繰返している。この意思決定過程が描写されないのは実に残念だが、ソフトバンク成功の要因に撤退の成功があるのでないか。探求すれば浮かび上がるものがあるように感じる。

 最後に産婆システムと世界戦略である。ここにはyahoo投資の成功モデル同様、アリババの成功がある。中国に限らず中華圏マーケットが今後一定の広がりを見せることは間違いない。計り知れない成長の産婆投資をしているように思える。

 本書を通じて何が得られたか。“熱く生きなければならない”成功は熱中の後に生まれる。まずは目の前に仕事に熱中する。更に論理的に考えること。可能な限り数値に置き換え考察を重ねる。構成主義の要素を掘り下げ数値かを試みたい。最後に大きな目標を持つ。これに尽きる。

本書に出会えたことに感謝!