人間の叡智  佐藤優

On 2013年4月16日, in 政治・経済, by admin

人間の叡智  佐藤優

人間の叡智 (文春新書 869)

著者の分析力は反論するすべがない。本書は民主党政権下、2012年7月が初版。その後政権交代となり安倍首相再登板となった。為替は下がり株価は上昇している。そんなことを踏まえながら読んで見た。米国やEU、中国などとの外交スタンス、軍事力、尖閣、沖縄基地問題と新書のボリュームでは収まりきれない問題を、著者の博識とインテリジェンスで切り込み回を導き出している。結果の成否はともかく評論でなく自らの見解をこれだけ多義に渡って示す人は見たことがない。それぞれのエキスパートはいるが広範囲に抑えられる人物は著者だけだろうと思う。政治は我々を取り巻くこうした問題にどう立ち向かうかを決定しなければならない。しかしそれがこの国はできない。理由には選挙制度と個々の当落問題があるからだこの国は人口あたりの代議士は米国など比べ圧倒的に多いとのことなので、一度少なくしてはどうかと思う。そうすれば選挙に強い代議士が残り、自らの考えを論じやすくなるのではないか。

“ポピュリズムでなく決定する”これが重要なのではないかとおもう。少しながいが著者のポピュリズムの考え方を紹介したい。「ポピュリズムはエリートを認めない。だから専門知識の欠如した民衆が直接専門家的領域に入ることができると思われてしまう。直接民主主義への希求もその現れでしょう。脱原発の議論に関しても、日本のエネルギーについて原子力発電をメインに考えるか、あるいは脱原発の方向で考えるかという基本的な方向性に関しては、民意は絶対必要です。….再稼働に関しては…専門家が議論して決めれば良いことです。しかしそれができなくなってしまっています。ヤラセだとかウソだとかで、エリートや専門家のやることが信用できなくなっている。日本の国家機能が弱体化している証です」

ポピュリズムは必要性だが、エリートへの「信頼が欠如」しているという。情報化社会とメディアの堕落も一因にあると思う。Webの進化によって情報を閉じることは難しい。そうであるのなら信頼に足るエリートを創出するほかにない。また国民全体がメディアを選別するパワーを持つことが必要なのではないか。脱原発デモが国会前を蛇行していたのは1年前。問題は深まるが何ら解決はなされていない。これを論じるメディアもない。

“記憶でなく事実”を並べ自らの考えを纏める。そんな作業が国民には求められているのではないだろうか。そんなとき本書は数多くの考えを導き出してくれる。本書とともに世相について考察を深めたい。そんな思いにさせてくれる一冊です。

 

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