アジア圏が重要なマーケットになることは周知されている。しかし細かいことはよく知らないとうのが現実ではないだろうか。本書は“かゆいところに手が届く”基礎的なことが網羅できるのではないか。さすが中公新書と言える。人物、マーケットなど知りたい時、中央公論社の新書は役に立つ。
S&Pによる米国債格下げを挟んで円、株、債権が荒れ模様だ。強気と自信の現れか中国などは過激な発言を繰り返している。そうした発言する国家ではあるが、中国の世帯年間可処分所得は5000㌦以下が66%を占める。ASEANでは60%、インドでは81%を占める。こうしてアジア圏を見るとあまりよいマーケットのようには思えない。しかし本書は地域=都市としてアジア圏を捉えているのである。引用して都市生活を紹介したい。
【中国を国としてみれば、まだ途上国に過ぎない。しかし消費市場として注目を集める上海の一人当たりのGDPは2009年に1万㌦を超えている。この1万㌦という水準は世界銀行が中所得国と高所得国を分ける基準であり、その意味では上海市場は先進国なみなってきたということになる。…ちなみに購買力評価レートを用いれば、上海の一人当たりGDPは2万㌦を超える。これは中国において地域間所得格差が大きいことに起因するが、同じことがASEAN諸国、インドにも当てはまる】
どうやらアジア圏は国家でなく“エリア”で捉える必要があるようだ。この成功モデルを衛星的に拡張していくのだろう。この現象をメガ都市とし次のように説明している。
【都市にいけば失業の可能性もあるが、高所得を得られる可能性もあるという「期待」が強く影響すると考えたのである。実際に、途上国の大都市が、失業者が多いにもかかわらず、多くの人々を吸収し続けたのは、そこが、貧困から抜け出せるかもしれない“期待の場所”であったからである。このように「過剰都市」として区分されたアジア新興国の大都市が、現在では消費市場として期待される地域へと変化してきたということは、結論から言えば、経済発展のなかで過剰都市問題を徐々に克服してきたことを示すものにほかならない。アジア新興国の都市は途上国型都市から先進国型都市へと移行する過程にある。このような新興国の大都市を過剰都市と区分するため、本書では「メガ都市」と呼ぶ】
急激な成長はメガ都市が大部分占めるということか。本書ではタイに紙幅の多くを割いている。国内企業ではマーチなどすでに逆輸入を始めとし日産が生産の多くをタイへ移転している。これもタイマーケットを狙ってのことだろう。
こうした現象を踏まえると、日本は地理的だけでなく経済圏をも「アジアの一部分」として捉える必要がありそうだ。汎用品で言えば“技術立国”という優位性はもはや難しくなりつつある。
こうしたことを踏まえ将来へどう舵を取るか深い考察が必要である。数多くを教示してくれる一冊だった。