東電帝国―その失敗の本質 (文春新書)

押さえとくべき一冊と痛感。
東電は政治、メディア、公共事業の代えがたい影響力を持つ。周知されている事実を丁寧に解説してくれるのが本書である。そこには戦前から脈々と続く流れがあった。見出しはこう説明している「札束で政治家を、天下りポストで役所を、寄付金で学会を、潤沢なPR費でマスコミを支配し原発神話をつくりあげてきた東京電力。元朝日新聞電力担当記者が、長年の取材を元に“驕りの帝国”の実像を描く」とある。

ここでは原発の是非について問うものではない。しかし“原発は安全である”という論調を作るために学会、政治、PRにより世論を誘導していたとすればそれは問題である。福島原発は東京ドーム22個分の用地だという。本書によれば用地取得以前に耐震調査が行われている痕跡は無いという。浜岡原発や柏崎刈羽原発のようなできごとがおきても何ら不思議ではない。メディアを通じたであろう“安全への誘導”。ここで明らかになったのはメディア、政治家、学者などの発言は自己の文脈を通じて慎重に咀嚼する必要があるということだ。

今回の事故以降さまざまな指摘がなされていたことが明らかとなった。ここで取り上げた人災ということが証されたに等しい。東京電力は社会的責任を取るということになるがどうやら倒産をさせない方向である。地域会社として存続するのであれば電気料金値上げによって収益を嵩上げすれば支払不能になることなどあり得ない。人災であるにもかかわらず会社更生法などの法的責任を取らない。これは超法規的措置なのだろうか。本書は今後の値上げについて次のように述べている。

「総括原価方式だと政治献金も原発PR費も、原発事故で発生する原発廃炉費や被害者、農業、漁業、畜産業に支払う保証金も経費に計上でき、総括原価は大きくふくらむ。このままの料金方式でいけば、福島第一原発事故後の電気料金は大幅値上げになる可能性もあるのだ。電力業界の政治献金は、値上げをいつ申請しても認可されやすいようにしておく、いわば環境作りである」

“電気料金値上げは必然”というのが大方の見方だろう。個人は節電などでカバーするほかない。問題は企業だろう。円高、高法人税率、高コスト、人材問題etcいまの状況を考えれば海外移転を検討するのが企業のあるべき姿だろう。トヨタが国内工場新設体制を決めたとき乱心したのかと感じた。結果として就職問題は今後より加熱しGDP、プライマリーバランスなどの問題は手が付けられなくなるのではないだろうか。
ここに至っては処方箋がかける人物はそんざいするのだろうか。

 

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>