WEDGE 2011/5

On 2011年5月9日, in 政治・経済, 書評, by admin

財政危機を招かない復興資金の調達とは 
 WEDGE OPINION 河野 龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

いまだ余震が続く中『東日本大震災第一次復興予算』が衆参を通過した。しかし国会は遅々として進まず“決定恐怖”のような様相が見え隠れする。一般に復興資金は20兆円程度と言われている。この数値も直後のものから未だ変化が見られないことに不信感を覚える。“補償する”ということばが一人歩きしているが、財源の原資に不安を覚えてならない。どこかの段階で増税や電気料金の値上げを覚悟する必要がある。その決定ができない政治に不信と不安を感じてならない。

政治不安は景気に影響を及ぼす。消費より倹約へと動くのは当然のことである。本来であれば20兆円を国はマーケットから吸収するのだから、長期金利の上昇や円高に向かうことが自然である。実際震災直後の相場はそのように動いた。なぜそう動かないのか著者はつぎのように説明をしている。

『2010年度の日本の公的債務(国及び地方の長期債務残高)はGDP比で180%に達する。未曽有の水準に達した公的債務に対し、極めて不釣合いな現象が日本で生じている。『円高、低い長期金利、デフレ』の共存である。本来未曽有の公的債務を抱える国は『円安、高い長期金利、インフレ』となってもおかしくない。その逆の現象がおきている。
 そうした状況が可能となっているのは、生産年齢人口や総人口の減少を背景に成長期待の低下とデフレ予想が継続し、民間の資金需要が高まらず金融機関が国債購入を続けているからである。つまり国債の増発ペースより民間の資金需要の低下ペースの方が速いため、国債の安定消化が可能となっている『デフレ均衡』。低成長とデフレであるが故に、長期金利の低位安定がつづき、財政破綻に至っていないのである。』

生産年齢人口の減少は以前“デフレの正体”でもレビューをした。しかし『民間の資金需要……』は些か異論がある。国債で安易にだぶついた資金が吸収される。逃げ場があるので“商品開発”がされない。よって民間に資金還流がなされないのではない。このことも一因にあるのではないかと思う。資金がだぶつくから容易な国債を可能にする。よって他の方法を考えないのではないのではないだろうか。

参議院の過半数保持は民主、自公いまのところ不可能である。しかし何らかの形で本予算関連法案の可決(修正がなされても)、2次補正予算の通過が夏前を目安に行われる。結果として国債残高が加速的に積み上がる。その点について著者はつぎのように述べている。

『今回の大震災によって、公的債務の臨界点が訪れる時期が従来よりも前倒しになった可能性がある。それでは我々は、導火線の長さが分からない爆弾を抱える中で復興資金の為の財源をどのように調達すべきだろうか。仮に復興に要する政府負担が4年間で15兆円から20兆円とすればそれはGDPの3%~4%に相当する。日本の財政赤字はGDP比で9%近くも毎年発生している….国債発行で対応する場合、直ちに国民に負担を求めることにはならないとしても、最終的には誰かが必ず負担しなければならない。経済状況が悪いから歳出削減も当面行えない、しかし復興のための財源は必要だ、というのが現在の政府のスタンスのように見える』

これは震災費用を除いたプライマリーバランスの図である。

税収37兆円に対して92兆の支出これがさらに悪化する。著者は本予算の見直し、時限的増税、短期的償却をする復興債の発行などを提案している。これが正解か否かは知る由もない。しかしそれぞれの立場で今以上にこの問題を考える必要あるのではないだろうか。

 

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