人は仕事で磨かれる

本書初版は2005年。著者は伊藤忠商事会長時に執筆された本だ。著者は現在中国大使として北京におられる。こればかりは外務省と柵のない民主党政権ならではの起用だったと思う。著者はプロパー社員としてCEOまで上り詰めた人物である。一般に創業者は大手企業サラリーマンを終え起業する人物は少ない(日本政策金融公庫資料等による)。生き方が違うのだと感じている。しかし“経営”ということについては参考になる部分は多い。

大手企業の経営と中小企業とは確かに違うのだと思う。人、モノ、カネ、情報。そのすべてにおいてスケールも質も違う。組織で考察すると人数が少ないためにすべてが見える。従業員は経営者の行動、考え方、生活すべて自己の文脈で一致しているか否かを判断している。あまりにも乖離していれば離職へと結び付く。大手企業であればたとえ上司であってもそうしたことは少ない。スイッチングコストや転勤などがあることもひとつの要因である。そうしたなか実際の経営は執行役員制度が普遍化しつつある。CEOは全体を俯瞰して考察する。これについては中小企業の経営者も同様である。細部ばかりを追いかけること無く俯瞰して考察しなければならない。

経営に対する考え方  論理

 著者の経営に対する考え方を取り上げて見たい。
「経営というのはまず論理がある。したがって我々のキャッチフレーズは論理に裏打ちされたものでないといけない。論理的に説明をするとなると、今度は学者みたいに非常に難しい言葉になりますから、そこをわかりやすく表現することが大事になってくるわけです」

 中小企業経営者で“論理の重要性”を取り上げる人あまり目にしない。しかし経営品質協会の受賞者の考え方を見ているとその重要性を強く感じる。またユニクロや星野リゾートなど急激に成長している企業は論理に重点を置いている。ユニクロは一橋大学大学院と連携している。また星野リゾートは“星野リゾートの教科書”なでも明らかになっている。
2社ともに中小企業からの成長である。こうしたことから明らかなようにサスティナブルな成長を目指すには“論理”が重要なのである。ロジカルな弁証法で軸を立たせることが成長を固める要素であると考える。

経営に対する考え方  姿勢・生き方

 ここでは著者の倫理や理念は明らかとなってはいない。しかしその一面を次の一節は教示していると思う。
「…人間の心は弱いものです。「神も仏もないのか」と思うほどの黒を味わったとき、さらに努力を重ねるのは並大抵のことではありません。そんなとき宗教を信じるかどうかは別として、誰かがかならず見ているんだと思って努力を続けたほうが、自分の心を納得させやすいのは事実でしょう。生きていく上で、そう考えたほうが説明のつくこともあります。私の解釈を言えば、神とは自分以外のすべてです。すべての人が自分を見ている。そう信じて一生懸命やっていくことで、人間は強くなっていくものだと思います」

 これが著者の生き方と捉えられる。とにかく“一生懸命やっていく、やり抜く”やはりこれが重要なのだ。京セラ名誉会長の稲森氏が“誰にも負けない努力”という事を言われる。これは相通じるものだ。これを可能にする“人”に感動を覚える。その結果が著者の中国大使や稲盛会長のJAL会長は“国家へのご奉公”なのだと思う。ここでは国家のために努力をしているのだと感じる。愚直に一生懸命やっていくこと。それが必要とされる人になる最初の一歩なのだろう。

 

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