インテリジェンス人間論

著者の人間観は鋭い。そのことについて次のように語っている。

「人は、できることと好きなことが異なる場合がある。インテリジェンス(諜報)とは行間を読むという意味なので、本来的にはテキストを扱う仕事なのだと思う。…隠されている情報をつかみとっていく作業は、知的ゲームとしては実におもしろい」対人間と考えると“人の背面や心の中をつかみとっていく”とも言える。そんな著者が出会った人について書かれたのが本書である。著者のフィルターを通すことで新たな像が浮かび上がるそんな気がする。

鈴木宗男氏について

著者が外務省を去る要因となったのが鈴木宗男氏との背任容疑である。現在鈴木氏は収監されているが最後まで無罪を主張していたことは生々し記憶に残る。また最後まで鈴木氏を裏切らずプレトコールしたことがこの事件の真相であるように感じる。そのことについての一節を紹介したい。
「日本の外交官は、鈴木さんは信頼できる秘密を守る政治家だと言って、ロシアの要人に紹介した。そして、プーチン大統領と会うことができるほどの信頼をロシア側から得た。ここで、鈴木宗男が天下の大悪人で、国賊だというキャンペーンにまで僕が加わればどういうことになるか。いや沈黙を保つだけでもどういうことになるか。クレムリン要人や野党幹部を含め、ロシアの政治エリートは僕を信用している。その僕が最後まで鈴木さんと一緒に進み、僕や鈴木さんの口から今後の日露交渉に影響を与える外交秘密が漏れないならば、ロシア人は「政治の世界には浮き沈みがある。今回、鈴木宗男は沈んでしまった。それに佐藤優も巻き込まれた。しかしあいつ等は、筋を通し、われわれに迷惑をかけなかった。日本人は約束と秘密を守る。将来、我々が信用する日本の外交官や政治家と仕事をしても裏切られることはない」と考えるだろう」
と述べている。当然のことながら“北方領土返還”を視野にいれての考察である。信ずべきを信じ俯瞰した考えのうえでの行動である。とかく自分のことしか考えない人が多い。そうしたなかで国家の将来と一人に人物のために自己を曲げないすばらしさを感じてやまない。こうしたことが人の信頼を得るのだろう。多数の知識人との共著が世にでている。

前原前外務大臣について

 前原代議士が民主党代表を辞任したのはメール問題だった。入手はあまりにもおそまつだったことはその後明らかとなった。その責任を取って辞職した代議士はその後亡くなったことを新聞で読んだ覚えがある。このメール問題について、著者は他の書でインテリジェンスの欠乏を嘆いていた。政権の要であったにも関わらず今回も辞任することとなった。尖閣問題でクリントンから言質を引出したように極めて有能な人物なのだと思う。この震災の対外への発表も前原氏であったら状況は変わっていたように思う。中国や韓国から一方的に言われる状況にはならなかったのではないか。残念でならない。結論は著者の読みが的中していたということである。

いま国に不足しているのは著者のような官僚なのかも知れない。

 

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