アメリカン・デモクラシーの逆説 (岩波新書)

 中国事情をフィールドワークから論じた作品を最近読んだ。本書は対象とも言えるアメリカの社会調査結果を論じた一冊である。この手では『堤未香 貧困大国アメリカ』も著名である。バラク・オバマに期待しながら、その理想と乖離した現実を実に鮮明に描き出しており、興味深く読むことができた。

 以前こんな講演を聞いたことがある。田原総一朗(ジャーナリスト)氏が日本共産党の不破哲三元書記長に“理想とする国家はどこか”と尋ねたときに『アメリカ』と答えたという。後に志位書記長へ同様の質問を投げかけたところ同じ答えがかえってきたと述べていた。国内では民主主義の対象にあるようにも思える共産党でさえも、米国を理想の国家としているようである。無論、現有国家からの選択ではあるのだが。こうした理想とも言えるアメリカの実態を本書は詳らかに調査を論じている。

 所得の2極化に関する問題は日本国内でも随所で論じられている。中国でも蟻族問題が挙げられていた。米国においても同様である。『アメリカ人の10%を占める裕福層が連邦税全体の55%を支払っている。その一方、連邦予算の約60%が個人に給付され受益者のほとんどが貧困層と中間層である』また『マイクロクレッジトを用いた貧困救済で有名なバングラディッシュのグラミン銀行は、…ニューヨーク市クイーンズ区ジャクソンハイツに全米初の支店を開設し、2010年には2500人対して500万ドルの有史を始めた。同銀行はその後同市ブルクッリン区やマンハッタン区、ネブラスカ州オマハなどへ展開している』

 米国にグラミン銀行があるなど考えもつかなかった。貧困者救済のコンセプトのもと中南米を軸に展開していた銀行がニューヨークに存在するのだ。こうした一面を見ると、もはや理想とは言えないのではないかもしれない。過日の日経でグラミン銀行の収益性や取立て行為が問題視されていたが、これらを踏まえると世界規模で抜本的な問題解決が必要なのかも知れない。それよりも社会以前からこんな状態でありITCが表面化させたに過ぎないのか。この答えの端緒を本書は次のように示している。

『人口動態調査(2006)によると、アメリカ国民のうち貧困層(4人家族で年収2万1000$に満たない者)は12.3%であり、貧困との戦いを掲げたリンドン・ジョンソン政権時代の1968年の12.8%からほとんど改善していない。黒人のその割合は24%に及ぶ』

 以前から抱えていた問題なのだ。それぞれ国家で状況は違う。しかしこの問題解決が難しいという共通点は一致している。制度、文化、慣習などが違うのに、なぜどこの国も解決困難なのか。『個々人』の問題なのだろうか。以前、複数回転職者についての考察を重ねたが『個々人の問題』という背景が感じられた。しかし思考停止することなく、社会問題として解決策を講じなければならないのだ。

 いささかデモクラシーとは離れたが本書からはアメリカが抱えているコトを数多く読み取ることができる。自分たちがアメリカに何が出来るかを考えなければならない時がきているように思うである。

 

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>