国家の命運 薮中三十二

On 2010年11月15日, in 書評, 雑感, by admin

国家の命運 (新潮新書)

国家の命運 薮中三十二

 外務省事務次官であった筆者が退官後良くメディアに登場するので御存知の方も多いと思う。普天間、尖閣、北方領土と外交問題が多様な外交問題に内閣がさらされていた時期もあまりないように思う。レベルの低いことではあるが、政治や外交に関心が集まり、政治を監視することは良いことである。こうしたことが持続的になれば良い。

さて本書であるが退官まもない著者が外交の実態を綴った興味深い一冊である。職務との関係で述べられないことが多いのであろう。しかし重責を果たした人の外交への心を綴りは価値が高いと思う。その著者が今の官僚・外務省について次のように述べている。

『官僚機構は政策の継続性を重視する。….それまでの政策を自ら否定してでも、新たな改革に取り組むというのはとても無理だ。時代が大きな変革をもとめているときに、官僚機構の習性が改革を遅らせ、半ば機能不全に陥ってしまったというのが実情である』

官僚文化の実態がそのものであり変化することは“無理”だと述べている。官僚自らが脱皮し新たなパラダイムを創り上げることは困難ということである。バブル崩壊後の細川政権成立時に“政治は官僚が動かしているから問題無い”と述べる評論家が多数いた。おそらく的を射た答えなのだろう。しかしその官僚機構がフリーズしているとしたら政治は一歩も前へ進むはずはない。しかし自覚症状があるということは改善の可能性が秘められているともいえる。

今ビジネスモデルはボーダレスにグローバル化しつつある。グローバル化した社会は外交との関係性が高く外務省の責は極めて重い。携帯電話は覇権どころかガラパコスという言葉さえ生まれた。ほんの少し機能を加えて新製品として販売する。輸出で難しいのは当然であろう。北米トヨタがリーマンショク以前好調であったが、購入者を分析すると“中古車での売価が高い”ということが主たる理由である。
ドライヴィングという【コト】の魅力でなくモノにすぎないのだろう。システムは【コト】を創造することにつながる。iチューン、ipodしかりである。著者はシステムを世界に売り込むことが日本経済生き延びるすべであると述べている。この一端が地デジシステム南米への売込成功だと記している。

FTA TPPしかり外務省は今後もこの重責を果たさなければならない。縦割り行政である以上関係省庁との垣根を越え、任務を果たすことが21世紀の日本の運命を左右する。“開国”などと言葉遊びの政治家の障害を超え職務を成し遂げて欲しい。我々は【コト】を創造するクリエティブクラスとなるために、何を成すべきなのか。何を研鑽することが求められるのであろうか。おそらく生涯追求する課題ではあると思う。追い求める続けることが研鑽の一端ではあろう。

今回中国大使に伊藤忠の丹羽氏が最後の御奉公と述べて赴任した。尖閣の問題を始めどれだけ重責に苦しまれているのかと思う。著者も米国大使や国連へいずれ赴任するのだろう。こうした大使の責務は極めて重い。苦しく思い責務ではあるが、国家の代表その責を果たして欲しいと思うとともに、心から応援したい。

外交について考える機会を頂いた一冊である。

 

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