「応援したくなる企業」の時代 マーケティングが通じなくなった生活者とどうつき合うか (アスキー新書)

著者名が『博報堂ブランドデザイン』なる部署名というのがおもしろい。実際は宮沢正憲氏なる博報堂ブランドデザイン・リーダーが執筆者となっている。ブランド・マーケティングは大学院でも学んだが、欧米の翻訳をなぞっているという気がしてならなかった。教授にも国内ブランドとグローバルブランドの差異性について議論をしたが、枠組みが大きすぎ明確な応えは出なかった。

本書は“ブランド”というコンセプトよりも、売れない時代のコンセプト・デザインの創造法を語っている。論文形式ではない。しかし随所に豊富なアーカイブを感じる。0章とした“はじめに”で消費者=生活者がなぜモノを買わないかについて次のように述べている。

『すでに物質的に満たされているなかで、違いがほとんどわからない似通ったモノをつぎつぎに発売されても、興味がわくはずがない。企業が思い描いていることも、やろうとしていることも、生活者には的外れに感じるのである。その結果、企業はモノやサービスを無理やり売ろうとする存在としてぼんやり認知され、自分たちにメリットをもたらす仲間と思われるどころか、悪くすれば、敵のような存在としてとらえられてしまうことすら起こっている。景気がどういう以前に、こんな状態では企業からモノを買おうという気になるはずがない。問題はずっと根本的なところにあるのだ』

本書はこの根本をさぐりながらコンセプト創造の考え方や手法について述べる。“『モノ』から『コト』へ”という考えかたはこのブログでも随所で述べてきた。この考え方が1980年代に始まる発想転換だと些か驚きを覚えた。確かにライフスタイルの創造や利用シーンの想像など経験価値を提示する広告が溢れていたように思う。しかしどうやらプロダクツ領域までは浸透していなかったようだ。これが『売れない時代』を迎えている要因かも知れない。企業ベースで考えれば“消費構造の変化”を感じても“企業構造の変化”に結びつけることは短い期間には困難である。数年単位に時間を要するだろう。

コト・コンテクストの考え方はマーケットと企業という存在軸を変える。たとえば山登りの道具の製造や販売する会社は、モノを売っているのでなく準備を楽しむ時間、登っている時、下山後にシェアしている時、山登りにかかわるフローそのものに関係してくる。そうなれば提供者と顧客などという関係からは遠く離れる。著者は企業と生活者の関係を“with C”という言葉で表し企業と生活者は『対等な目線』であるという。自分に置き換えると趣味系のショップなどがこれに当てはまる。著者は『マーケターは“似た嗜好の人々で集まりたい”互いに助け合いたい“といった人間の基本特性を学ぶのに多くの時間を割りあてるべき』というモーランの言葉を引用し考えを示している。

本書は実に的確にわかりやすくマーケットを教えてくれる。この週末研究ノートとしてまとめてみたいと思う。

 

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