日本銀行 デフレの番人 (日経プレミアシリーズ)

日本銀行 デフレの番人   岩田規久男

前回総選挙で自民党は175議席増の294議席である圧倒的支持を得た。デフレから脱するために、あらゆる手法を使っているように見える。経済界への賃上げ要請など労働組合が支持団体にあるかのようだ。この小泉政権以降、補正予算以外の景気対策が目立たなかったことから、能動的に働く姿が新鮮にさえ見える。6月の参議院選挙、圧倒的な議席増、総理や自民党の高支持率、マーケットの動きなど期待値は高く、矢継ぎ早に実行している。どうやら私は天邪鬼らしい。この政策は信頼性に欠け不安を覚える。当然、わたしも景気回復を望む。この不信感は総理の前回の職の辞し方やリーマン・ショックにおける麻生内閣の対処や言動などが根底にはある。こうした心持ちのもとで本書を拝読した。

著者は、どうやら日銀副総裁に就任のようだ。本書執筆時は日銀の金融政策は “円安”環境をつくれない「倒錯」だと述べている。著者の主張をざっくりと記せば“マネタリーベースの増加 → 円安(本書は特に注視しない限り米ドルに対して述べている)→ 予想インフレ率の上昇 → 輸出の増加 というシンプルなメカニズムだ。しかし数年前ガソリン価格が上昇したとき、産業の輸送問題だけでなく、漁師が漁に出られない、広がりを見せた薪ストーブなどさまざまな問題を引き起こした。国内をひっくり返すような問題となり、民主党は”ガソリン値下げ隊“などという運動を行っていたように記憶している。株価上昇で高額商品を購入するような裕福層ではなく、円安 → 電気・ガソリン価格の上昇 → 節約という現代の中間層は、ただただ財布の紐がきつくなるのではないだろうか。またGDPがあがり雇用もアップするという。しかし正社員の数がどこまで上昇するだろうか。いろいろな数値の出し方はあるが、新卒の80%は採用されている。問題なのは30代後半からだろう。失礼を承知で述べれば卒業後15年間、果たしてキャリアを積んできたのだろうか。それでは無いように感じている。個々人が能力開発をしなければ生き残れないという意識改善が最も必要なのでないか。ハローワークでの数ヶ月の学びがとても就職に役立つとは考えられない。シャープやパナソニック、SONYなど電機業界は厳しい局面を迎えている。円高がこの一因にあることは間違いない。だが産業構造の転換期であり求められるのはイノベーションである。円安によって雇用増などとても考えられない。
金利上昇リスク、プライマリー・バランスの一層の悪化、→国の格付けの低下 → 銀行格付けの低下 → 自主再生不能 というシナリオも数多くの学者が論じている。このリスク・ヘッジを早々に論じて欲しい。しかし国会での追求はまったくなされていない。還元すれば責任放棄のように感じてならない。

やはり著者や浜田宏一エール大学名誉教授らの主張にあまりにも偏っている。政治家は職を辞すれば責任を取ったことになる。そもそも学者の方々に責任などなく、前提条件の違いや環境の変化を前提にすれば学者としても問題にはならないように感じる。結論として“リスクは国民が背負う”。社会保障費や国債の弁済は国民が負担をする。規制緩和などによって国力を上げることを軸とし日銀の問題は外せない名脇役程度にしてほしいと思う。

 

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