ユーロ・リスク  白井さゆり

ユーロ・リスク (日経プレミアシリーズ)

日経2面(迫真)に欧州の特集が組まれている。スペイン人のアナは法学と経済学を修めた弁護士。しかし『友達もどんどん海外に出ているしドイツや英国はもちろん仕事があればアジアでも米国でもどこでいくわ』と述べている。優秀な若者は『外』へでる。知の流失だ。

知の流失はEUという地域性問題ではない。しかし人口1000万人のギリシャが世界を揺さぶっていることが、知の流失を加速させていることは間違いではない。グローバル化しはリアルな距離は問題ではない。バーチャルですべてがつながっている。我々は自らの問題としてEU問題を把握する必要があると思う。EUの問題基礎知識を学ぶべく本書を拝読した。

本書は『国家の債務返済能力』と民間を含んだ『純対外債務規模』をキーワードとしている。(債務返済能力は『地方を含んだ政府債務残高の対GDP比』であり、経済全体としての債務を除いた対外資産残高が純対外債務規模)このリスク指標をもとに全体の考察を深めていく。

指標は『ギリシャ・アイルランド・ポルトガル・スペイン』と『ドイツ・オランダ・オーストリア・フィンランド』の南北2つのグループに分けた。hi rick south とlow rick northである。だがハイリスクグループを検証してもあまり意味をなさないように思う。それはギリシャ国民が6月17日の再選挙で自己破滅的な選択をすれば、ギリシャだけでなくハイリスクグループ全体が崩壊する可能性を否めないからだ。そこでここでは優秀な北グループとくにドイツを検証したい。

日本もかつては経済は成長し財政赤字は少なく優秀であった。ドイツはいまだ高成績を修め続けている。下記はgoogleパブリックデータから引用したドイツGDP成長率の推移である。

1975年~2010年までマイナス成長は3回しかない。5%を超えるような成長は見ないが着実に成長を重ねている。この要因は何か。

ひとつには東西ドイツ融合がある。一時的に経常赤字にはなるが、労働組合との折衝により賃金伸び率を低く抑え競争力を保った。次に憲法を改正してまで“財政均衡方”を成立させたことだ。本書によれば『2016年までにGDPの0.35%を超える「構造的財政赤字」を発声させることを禁じたのである。2020年以降の構造的財政赤字は認められなくなる…..
これら5ヶ国は地理的に見ても北方に位置している。オーストリア、オランダ、フィンランド、ルクセンブルクの財政規律や競争を重視する経済政策についての考え方はドイツに近い』

“自らに対する厳しさ・民主主義への参加”これが成長の秘訣ではないのだろうか。ケインズ経済政策とは真逆に近い。だがコモディティ化した物造りは安価な人件費の国でつくられる流れは止まらないだろう。成長させなければという危機感がイノベーション産み出すのではないか。

本書は日本との対比はまったくおこなっていない。しかし読み手はどうしても日本と比べながら読んでしまう。国民全体が負担をしつつ厳しい目線で行政や政治を観察する。この姿勢が求められるのではないかと思う。

EU問題の基礎がわかる一冊だと思う。

 

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