「反原発」の不都合な真実 (新潮新書)

本書には理論物理学博士、外資系投資銀行勤務とある。内容が際立っていたことからwebでも略歴をしらべて見たが実際のところはよくわからない。出版社責任で略歴は信じることとする。

まず著者は石炭、石油の化石燃料のほうが原発より危険だと言う。次に経済的影響についての説明を加える。本書の数値はWHOなど公式なものや論文などを引用したものが多い。数値は機関などによって違いはあるが説得力があるものが多い。たとえば“大気汚染リスク”についてつぎにように説明をする。

「WHOの調査によると、日本ではだいたい3万3000人~5万2000人の人が毎年、大気汚染で亡くなっています。世界では100万人以上の人が大気汚染で毎年死んでいます(WHO 2009)このうち自動車の排ガスを原因とするものが半分程度で、火力発電所の煤煙が3割程度です…」また「国連科学委員会はチェルノブイリ原発事故の後も、注意深く放射能汚染の人体への影響を研究してきました。(UNSC 2008)そして事故後20年間の研究結果を報告しています。その結果、今までのところ事故直後の高濃度の放射性ヨウ素に汚染されたミルクなどを摂取した子供に、通常よりも高い頻度で甲状腺癌が発生したことが判明しています。4000人ほどの甲状腺癌の患者が見つかり、現在まで15人が死亡してしまったそうです。また事故後の緊急作業に従事し、急性放射線症やその後の癌などで50人ほどが死亡していました。しかしそれ以外の放射線による健康被害は現在のところ見つかっていません」

反原発者に対する著者の問いかけである。私は飛行機や車などの事故も利便性とトレードオフの関係にあるのだから原発を一方的に避難するのは如何なものかと思っている。ただ万一の場合被害地域が限定されてしまう。犠牲を強いる地域と利便性を受け取る地域の差が生じる。この問題の妥協を得るには“信頼できる政府”の存在が必要だと捉えている。それは実績を信頼である。もう言葉では難しいだろうと思う。著者はWin-Win の関係だというがその点については噛み合いそうもない。著者の言葉を紹介したい。

「電機に限らず、都市に必要な水や食料なども、ほとんど全てが地方からやってきているのです。核燃料税などにより、そのリスクを引き受けた地元住民に経済的な見返りがあるは当然なのです。そういった電力会社が治める税金は、電気代に転嫁されます。安価な広い土地がない都市の住民は、電気代を通して原発立地県にお金をお支払い、そして電気を作ってもらうことにより便利な生活を享受しています。これはWin-Win の関係で、他の経済活動と何ら変わりのない普通のことです」
経済・お金,….この辺の感性で語る保証政策には心がない。基地問題もこれに准ずるのではないか。もっと相手の立場にたって考えるべきだろう。生産手段を失い失業となった農家にできるのは、経済援助だけでなく明確な希望が持てるようにすることだろう。失業という状態からすこしでも仕事を出せるようにすること。人の喜びの原点から考える必要があるのだと思う。

こうした同意できないこともあるのだが、著者論理には惹かれるところが多い。「多様な角度」から原発問題を考えて行きたいと思う。

 

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>