レジーム・チェンジ―恐慌を突破する逆転の発想 (NHK出版新書 373)

帯には“脱デフレへの切り札”とある。実はこの本のレビューを書くことは少しためらった。理由はないように同意できからだ。TPP亡国論などが重版を重ねていることから本書部数も伸びるのだろうと思う。読みやすく経済学理論を用いながらの解説は説得力があるように感じやすい。しかし過去思考から一歩も抜け出ていない。

日本経済がデフレであり経済回復の必要があるという認識に差はないと思う。また財政赤字は膨大でありこの問題も解決をしなければならないと考えている。しかし多少なしかたがないが、生活水準を落とすような増税はごめんこうむりたい。また社会保障という保険体制は万全にしてほしい。一般的な消費者はこんな認識だと思う。政治はこうしたことを担保(言葉に過ぎないが)しながら将来の日本が良くなる改革をすすめると述べている。

本書はこの20年間効果を得られなかった「財政出動」が問題を解決するという。

「…….したがって、経済がデフレに陥ると、民間主導で投資や消費が伸びて、需要を拡大し、デフレを脱却するということはあり得なくなります。デフレでも、投資や消費を拡大できるのは、経済合理性を無視する愚か者だけです。ですが、そんな愚か者がいてくれなければ、デフレ下では需要は絶対に増えません。しかも、何十兆円という需要不足を補うほどに、巨額の投資や消費を行なう大馬鹿者がいなければ、デフレを脱却することはできないのです」

この一節になんの共感も覚えない。たとえば麻生政権で行なった“エコポイント”6930億円を使い、2.6兆円の販売を押し上げたという。だが内製された部品はどの程度なのだろうか。さらには今期の決算でシャープもSONY、パナソニックはテレビ事業が大幅な赤字となり、事業戦略は大幅の見直しとなった。企業はこうしたことがある程度見えていたのではないか。それでも“地デジ化対応”でやらざるを得なかったことのではないだろうか。6930億の投資によって入った売上は国内投資ではなく、海外投資へと転換されているのだ。

また小さな政府と関連付けて“公務員数が少ない”ということを述べている。

「…しかし奇妙なことに、こうした構造改革が始まる直前の90年の時点において、日本の全雇用数に占める公務員数も、GDPに占める政府支出も、先進諸国なかで最低水準に属するほど、すでに「小さな政府」でした。たとえば、日本の全雇用数に占める公務員は、アメリカの約2分の1、イギリスの3分の1程度でした。新自由主義的な改革を行なった後の英米よりも、すでに日本の方が「小さな政府」だったのです」

これは“数”を追求するとそうなる。しかし“規制が厳しい社会である日本”と“緩和社会である米英”では比率に差がでるのは当然のことなのである。こうしたレトリックを使うことは如何なものだろうか。私は上級行政官の給与体系はもっとアップをしても良いと思う。しっかりと所得を与え将来まで保証すべきだと考えている。24年間で19人も首相が変わる、雰囲気で選挙結果が大きく動く。こうした未成熟な環境では行政官である上級官僚が今以上に政策に強い力を持つ必要があるのではないかと考えている。

だが官僚制度のいまののままで良いはずはない。私はここにレジューム・チェンジを求めたいと思う。ほかにも納得が得られない箇所が多々あった。こうした本によって世論がすこしでも動くのであれば極めて危険ではないかと思う。久しぶりにとんでもない一冊にであった。

 

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