官邸から見た原発事故の真実 これから始まる真の危機 (光文社新書)

福島原発事故の対応は歴史が是非を明らかにする。事故発生時の官邸対応は現時点では酷かったと感じている。本書は内閣参与として官邸へ詰めた田坂教授がインタビューイーとして綴った一冊である。事故以前の問題、事故後の対応、これからのエネルギー大きく3つに分けて語られている。エネルギー政策や組織論について深く考えさせられた。

尖閣や普天間、震災、円高は、防衛・外交・社会保障・エネルギー・環境について考える機会を得た。それは短じかい時間軸だけではない。これから生まれる子の環境といった長期的視座が併せて焦点となる。こうしたリスク・マネジメントについて著者は次のように語っている。

「そもそも「真のリスク・マネジメント」とは「起こってしまったリスクを最小限の被害に抑え、迅速に収束させる」ことだけではありません。「今後、起こり得るリスクをすべて予測し、いち早く、そのリスクへの対策を打つ」ことです。その視点から見るならば、いま、我々は目の前の「原発事故」と「放射能汚染」のリスクに目を奪われるあまり、その先にやってくる「さらに深刻なリスク」を見つめることを忘れています。それは「真の危機」と呼ばれるものです」

危機は物理的・精神的の2つに分けて考えることができる。著者が究極の問題として捉える“高レベル放射性廃棄物”は現代の研究では処理方法が無い。それを大量に発生させてしまった。もうひとつは信頼クライシスだ。それは震災対応だけを指すものではない。この数年間に取った政府の行動への不信感だ。不信が折り重なっていることは大政党の支持率を見れば明らかだろう。技術面、精神面ともに不信はつのるばかりだ。だが時間は止まらない。4月にはすべての原発が止まる。製造業が稼動し文化的生活を営むには代替エネルギーが可能となるまでの間、原発に依存することとなる。しかし東京電力問題さえ決着することができないのが現状だ。

いまの文化を維持するなら“原発再稼働”を選択する他ない。今回の事故でもわかるように300㌔先までのリスクを視野にいれる必要がある。それは国民全体への説明となる。
著者は「まず、我々は、何よりも今回の事故が国民の信頼を決定的に裏切ってしまったことを強く自覚し、深く反省しなければならない。そして、その反省に立ったうえでこの原発事故の原因を徹底的に究明し原子力行政と原子力産業の抜本的な改革を行わなければならない。そのうえで、我々は、国民の前に深く頭を垂れ、謙虚に最後の審判を仰ぐという姿勢を持たなければならない。それをしなければ、我々は、国民の信頼を完全に失い、原子力の未来は決定的に失われると思っています」

我々ができることはまず判断選択ができる知識を付けること、次に信頼に足る政策を検討すること、そのうえで精緻に管理する。こうしたことが求められるのではないか。裁判員裁判制度ではないが、国民参加型の決定システムがあっても良いのではないかと思う。

時間をおいてもういとど読み直したい一冊。震災後の1年を検証するには最適な一冊ではないだろうか。

 

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