95年のマネジメント・ブックからこのシリーズを読み続けている。本書を最初に読んだのは10年以上も前になる。戦略論を学ぶなかいまだ本書を手にするのだが、忘れていることも多く気づきが多い。
経営理念・ビジョン・戦略の3要素の重要性は規模を問わない。ここで考えなくてはならないのは、経営理念やビジョンは経営者の自己実現に近く、戦略構築にはバイアスがかかることだ。理念は普遍的に通ずる『倫理観』が求められる。またビジョンも他とわかりあえる必要がある。唯我独尊であってはならない。たとえ唯我独尊に近くとも社員やステークホルダーの理解を得なければならない。戦略はこれらの条件が整わなければ実行は伴わない。
“ミドルアッパー・ダウン” 野中郁次郎一橋大学名誉教授は大手企業の経営戦略の実態をこのように述べている。部長や中間管理職が役員とラインの中間に立って整合性を取るそんな意味合いだ。ひとつの翻訳機能と言っても良いだろう。これが大手企業において戦略の実行を難しくさせている原因でもある。これではなかなかビジョンや理念は伝わらない。
中小企業でもこうした問題は発生する。しかし中小企業では、経営者と社員の距離があまりにも近よっているために“近すぎて見えない”という現象が起こりやすい。理念は繰り返し、ビジョンはビジュアル的に表現する。こんなことが大切なのではないかと思う。
本書は経営戦略書としてはボリューム・質ともに優れていると思う。経営に携わるかたにご一読をお勧めしたい一冊だ。