田中角栄に今の日本を任せたい 角川SSC新書 (角川SSC新書)

最近は読むこともないが、一時期著者の作品はほぼ制覇した。作家で著者ほど政治家個人に踏み込んだ作品を読んだことがない。そんな著者だから書ける一冊だと思う。混沌した日本も田中角栄なら離陸できるのではないかという思いから、田中角栄に近い人物11人の証言を元に論じた一冊だ。

惨憺たる来年度予算からは展望は何も見えない。ハイエクは、政治家は次の選挙を考えながら政策を実行するから論理的ではないと論じている。また民衆もいまの権益を離したくはない。どちらも自然である。だから晴れ間が見えないのも当然のように感じる。

いまさら政策として掲げた“日本列島改造論”ではない。田中角栄から学ぶのは行政・役人とのコミュニケーションだろう。本書のなかで、鳩山邦夫は民主党のもとでの震災を“歴史的不運”とまで言う。また石原慎太郎都知事は“無知で未熟な連中が集まって、役人を使わない、何をうぬぼれているのか。役人の言うことを聞かないで『政治家で、政治家で』と役人を使わない。この事態になぜ、一番ノウハウを持っている事務次官会議をやらないのか。役人をいかに使うかが政治家の力量。いまだに事務次官会議を開かない、こんな政府は前代未聞だ』とまで言っている。

田中角栄は役人とのコミュニケーションに秀でた政治家だった。それは言霊があり自らの身を切っても尽くしたいと思われる人心掌握だろう。人心掌握なきリーダーのもとでは人が働くはずはない。田中角栄に可愛がられたという小沢一郎民主党元代表もとで前々回の参議院で過半数を取ったとき大連構想が持ち上がった。民主党政治家では政権担当能力に欠けるとの問題意識からだった。これは人心掌握のすべが無いことだったのかも知れない。まさにいま現実となっている。

本書からそうした問題が田中角栄というバイアスを通じてまざまざと現れてくる。震災後の対応に政治の誤りがあったことは間違いない。だがいまこの国が抱える問題はそうした政治家を生み出すシステムや投票者が真なる問題ではないのだろうか。たとえば失業問題がよくメディアで取り上げられる。これも年齢、経歴、学歴などのレイヤーで考えればずいぶんと違う。論文(中央大学 坂田氏)からもそれが明らかとなっている。またジェイミー・ダイモンJPモルガンCEOは本当の解決策は“教育”だという。こうしたことの解決策も“田中角栄”なら正面から説明がなされるように感じてならない。

震災復興需要があるとはいえこの国の20年間の平均GDP成長率は0.8%に過ぎない。それにも関わらず年金も含めて数パーセントの成長率を前提に予算組をする。経営ならばこんな予算を組む企業に融資をするはずはない。
自分なりの解決策を考えるときを迎えているように思う。読みやすくいろんなことを考えさせられる一冊だった。

 

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