著者は元外務省、調査企画部長・情報調査局長を歴任された人物。またサウジアラビア大使、タイ大使を歴任されている。本書は外交それも維新後の対外戦略における戦略的思考について論じたものだ。

本書は1983年初版、99年23版というロングセラーである。この些か古いロングセラーが丸の内丸善に平積みしてあった。果たしてその理由は何なのだろう。真珠湾攻撃70周年なのか、それともTPPを始めとした国際戦略を意図したものなのだろうか。未確認ではるが周りに戦争をキーワードにした書籍がなかったことから国際戦略ではないのかと思っている。

【決められない日本】については山本七平の『空気を読む』を始めとしたさまざまな文献からも明らかとなっている。本書はそうしたことについて次にように述べている。

『…いわゆる体制派の知識人も、左翼的変更と戦うのが精一杯で、現在の日本のデモクラシーについて総合的な理論を完成しているということでもありません。ということは『理論』なしで『社会』ができたわけです。これは日本的といえば日本的でしょう。明治維新も、鎖国を脱して君主制の下の近代国家をつくろうというイデオロギーが勝った結果できたものではなく、実態は尊皇攘夷といって騒いでいるうちにできたものです。日本の過去の制度の中で傑作の一つと言える鎌倉時代の武家政治も別にイデオロギーが先にあったわけではなく、成り行きでできたものです』

本書は日清、日露、第二次世界大戦について、極めて精緻に史実を追っている。そのうえで史実の背景である外交環境の解説がなされている。解説の論理性は高い。また多くの紙幅を使って分析が加えられている。この手の本はよく読むのだが類まれな良書だと思う。

こうした過去の論理から我々は学ぶべきことが多い。いま対外環境は激変している。S&PはEU諸国の国債を格下げの方向で見直すと発表した。BRICSは政治経済ともに不安である。国内においてはいまだ何も決められない。こうした政治不信から国際企業は海外への比重を高めている。イオングループの新卒採用予定を見ればその端緒が伺える。これはマーケット環境の変化もあるが、政治への不信だと感じている。本書の史実とこれから日本が歩む道程が事実は違えどもフレームワークは同じでなないかと感じている。

俯瞰してこれからの日本のあり方を考察するのうえで類稀な良書ではないかと感じている。

 

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