日本の国境問題  孫崎 享

On 2011年8月23日, in 政治・経済, by admin

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

海を挟んで隣接するすべての国と国境問題を日本は抱えている。それは北方領土、竹島、尖閣の帰属を指す。だが活発な議論を聞いたことはない。北方領土における鈴木宗男氏(収監中)を始めさまざまな個別交渉はあるのだろう。“尖閣など領土問題など存在しない”という発言もある。だが現実は断続的とも言える領海侵犯が行われている。竹島は実効支配がなされ韓国領土だと声高々に叫ばれている。過日の国会議員入国拒否などその典型である。それにも関わらず『政権選択』時に政党の国境問題への姿勢が分からないというのは甚だ遺憾である。

こうした問題があることを我々は認知する必要があると思う。著者、孫崎享氏は外務省にて駐在、大使を経て防衛大学校教授(09年退官)が論じた書であり“国民が知っておくべきこと”を主眼としている。こうした書により問題の本質を知ることは国際関係論を考察するうえで大変重要だと思う。グローバルソブリンリスクにも深く関係し為替動向にも影響を及ぼしかねない。

本書は歴史的背景を踏まえ帰属を詮らかにしているが、実際に国境問題が活発になるのはロシア、韓国、中国の国内政治と関係が深い。その例を1年前の尖閣問題で示したい。

『国境紛争は内政の動向と関連する。その時には、この緊張で誰の立場が強くなるか、その人物が結局は緊張を煽っていないかを見ることが重要になる。

2010年9月尖閣諸島で緊迫した時期では中国では重要な人事の時期であった。10月の党中央委員会第5回全体会議(五中全会)の直前である。中国指導部は世代交代を行う重要な時期である。次期リーダーと目される習近平が軍の要職である中央軍事委員会副主席に選出され、国家主席の後継を固めるか否かを決める重要な次期である。8月頃、中国では権力をめぐり内部闘争が緊迫しているという噂が流れた。こうした時期には内政上の闘争を有利に展開させるため、意図的に対外関係を緊張させるグループが出る。歴史的に見れば、多くの国で国境紛争を緊張させることによって国内基盤を強化しようとする人物が現れる。そして不幸なときには戦争になる』

このように述べている。先般の北方領土大統領訪問、韓国における竹島ヘリポート改修工事なども同様であろう。問題の質はそれぞれ違う。“米国の見解”に影響されるのでなく日本国としてこの問題をどう捉えどのように行動していくのかきちんと示す必要がある。それは政党や政権によって変わるものではない。未来永劫変わらない姿勢を明確にすべきではないだろう。政党間で違いがあれば選挙や政党間協議によって定めるべきだと思う。こうしたことは“発言の質”が長きに渡って問われる。村山発言や河野発言が未だ国家の姿勢なのか否か人によって違う。退任の直前であろうがなかろうが官房長官発言が重いことは言うまでもない。発言をした事実がある以上国民とコンセンサスを得て折衝する他方法がないのではないか。

欧米が不安定になれば、こうした問題はいままで以上に経済に影響する。外交、政治、経済と意識改革が求められる時期なのではないか。“揺るぎ無い理念を持つ”これが重要なのではないか。

本書は国境問題の教科書である。一読する価値あり。

 

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