世界の運命 – 激動の現代を読む (中公新書 2114)

混沌としているからNEWSになるのか、明るい情報がないからその理由は知る由もない。しかし世界が錯綜とし不安定な状況であることは間違いない。米国、EU、東アジア、どれひとつとして安定的ではない。本書は「大国の興亡」の著者であるポール・ケネディがエッセイとして政治・経済・社会の問題提起と処方箋を示している。エッセイではあるが巧みな分析と提言は論文を思わせる。

オーバーシーという考え方が通用しないことは十分理解している。国内に限定した仕事をしていると、「対岸」という考えがあったことは否めない。しかしそうではない。日々刻々と変化する世界情勢が我々の環境を変化させる。8/22「日経・経済教室・伊藤元重・東大教授」は「世界経済の回復が遅れるほど、グローバルソブリンリスク(政府債務の信認危機)の危険は拡大していく。背景に違いはあるものの、日米欧すべて国債への資金シフトが起きたことが、この問題をグローバルな存在としている。今や日本の財政問題は日本だけの問題ではない。欧州や米国で国債価格が下がるような動きがあれば、日本だけがその動きから遮断されることはありえないからだ。ソブリンリスクとは財政リスクというより金融リスクである。国債市場におかしなことが起きれば、それは国債を大量に保有する金融機関の問題となる」と論。また為替は円高傾向にあるが「敗者競争」のランキングはいつでも変わるとも述べている。
EUはギリシャ国債問題や暴動を抱え、米国は地方債が暴落している。日本は円高問題や政治不安を抱える。こうしたなか来年は世界中で政権交代が進む。年替わりの首相とは影響力が違う。オーバーシーの「混沌」は序章に過ぎないのかも知れない。

しかし本書は環境を踏まえ的確に本質を導く。激動の現代を読み提言を発信するのである。活路を見出そうとする、著者の思いはこの一節に込められているのではないか。「民主主義は、戦争状態にならない限り戦略的に考えることはできないという、「地政学者」の創始者ハルフォード・マッキンダーの有名な言葉を論破しようではないか」この言葉は知、活路を見いだそうとの思いが犇々と伝わってくる。単なるエッセイなどではない。未来への問題提起・処方箋という言葉が当てはまる。

G2には次の問題を投げかけている。

「世界の外貨保有残高全体に占める、ドル比率の減少は米国の影響力の減少を意味する。…ドルが弱まれば弱まるほど、つまりほかの通貨の価値が高まれば高まるほど、米国の国際的な重みは減少する、ということだ。…要するに中国に通貨切り上げを迫るのは愚策である。北京は、さらに米国を見下し、実に協力なポーカーの手札をもらって驚くだろう。米国の要請を丁寧に断れば、中国の大衆が喜ぶ。人民元を切り上げれば、ドルはさらに弱体化する。これを見て、アジアやアフリカ、中南米の各国政府は、保有外貨のドル離れに着手するだろ。だが、目下のところ米政府と米連邦準備制度理事会は、聞く耳を持っていないらしい。経済をさらに刺激し、さらにドルを刷りましするつもりのようである。….」

これは経済に素人の私でも理解できる。伊藤元重教授の示す「通過安敗者論」と結びつくのである。つまるところ“高失業率=選挙敗北”の構図が通貨安競争に滑車をかける。結果としてケインズ政策は行き詰まることとなる。日本の20年そのものとも言える。解決の処方箋は劇薬なのかも知れない。社会保障制度揺るがし人々を混迷させるのかも知れない。しかし不時着でも着陸さえできれば次の展開が見えるのではないだろうか。

折を見て再読したい一冊である。

 

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