本書を一言で言い表せば“奥深い”という言葉が適切だと思う。経営者とは“こうあるべき”ということを超えロジカルにサスティナブルな発展を可能とする経営者を浮かび上がらせている。愚直な実行力や力強い胆力が経営者に求められるのは言うまでもない。そうした基礎的な能力を超えて何が必要かを教示してくれるのだ。
ここではオーナー型経営者を軸に考察を深めたい。
起業の失敗率は他国でも高い。経営者の自伝などを読めば修羅場を幾度も乗り越え成功に至っていることがわかる。そこで必要なのは強い精神力となる。しかしあまりにそこが強調されるのは如何なものかと思う。“ロジカルな思考力とそれを支える知識”このうえにドラッカーや論語のような言葉の力が必要なのではないだろうか。
経営者の重要な職務に【戦略的意思決定】がある。意思決定をする者が経営者なのである。中小企業の場合は“最後は自分一人”で決定をしなければならない。本書では戦略的意思決定、管理的意思決定、業務的意思決定の3つに分けている(A、Dチャンドラーの引用)が中小企業は不透明性が高いことからすべてを含めて意思決定としたい。ドラッカーは【戦略的な意思決定においては重要かつ複雑な仕事は、正しい答えを見つけることではない。それは正しい問いを探すことである】としている。“問を探す”日々の実践では高い問題意識を持つということになるのか
問題意識は自社や業界だけでなく社会的視点から俯瞰した考察が経営者には求められる。著者は意思決定について「経営者は何をする人なのか。これまでの役割と機能に関する学説や調査結果などを通じて優れた経営者に共通する特徴を見てきたが、これらの経営者機能を突き詰めれば【意思決定】機能に集約できると言ってよい」こう述べたうえで「企業経営の目的が、企業を長期的に維持・発展させることにあるのは論をまたがないが、そのために必要なのが利潤であり、それは長期的には経営者の経営施策上の意思決定に依存していることは言うまでもない」
“意思決定が利潤を生む”このことばの礎は“渋沢栄一の論語と算盤”ではないだろうか。論語をいまの文脈に直せばナレッジであり正しい判断、選択をする倫理観である。こうした考え方がサスティナブルな企業発展を可能にすると思う。
とかく不透明な時代ではある。決して夜明け前といえないだろう。しかしこうしたときこ“経営者の条件”をひとつひとつクリアすることが求められるのではないか。