米中逆転 なぜ世界は多極化するのか? (角川oneテーマ21)

政治・経済は事業環境を左右しかねない。事業環境を考察するうえで必要不可欠な知識だと思っている。今回の東日本大震災やリーマンショックのように即業績に変化をもたらさないまでも、ジワリジワリと影響を及ぼすことが多い。本書は著者のメルマガを恩師に紹介されたことから拝読した。

著者の考え方や表現は偏りがある。よって割引をしながら自らの知とする必要がある。偏りは中国への偏りである。“米中逆転”と題名がそれを表している。中国が成長著しいことは言うまでもない。しかし現在の成長は“内需への投資”から起きている。さらに年率9%以上の成長は政情不安を回避する最低条件である。著者自身も内政問題は認めつぎのように述べている。

「リーマンショック後の中国経済は、政府による内需拡大のために財政出動によって支えられており、それが経済成長の要素の95%を占めると言われている。政府が内需拡大を止めたら中国経済は成長が大きく減速しかねない。中国では株価もすでに高すぎると言われているし、上海では商業ビルの作り過ぎで空室率が50%以上になっている。中国はバブル崩壊前夜だという指摘があちらこちら出てきている」

著者は中国経済がこのように不安定であると認めつつも米中は逆転すると述べているのだ。それはGDPベースでの逆転だけでなく覇権国として中国を指している。ドル、ユーロ、元の経済圏が確立し元が最もパワーを持つということを論じている。確かにG0時代を論ずる学者が存在することは事実である。それはG7→ G20へと移りつつある。G20はまとまらない。米国はG2により問題を解決しようとした。しかし中国は大国責任を果たそうとしない。よってG0の時代という流れである。

これは一つの事実である。日々新聞などでも明らかとなっている。こうしたなか我々はどのようなスタンスでビジネスをすべきか大変難しい。海外と取引がなくとも人の考え方に変化は現れる。マーケットの志向が変わるのである。

私は“中国との密着”を著者が進めていると捉えている。それは次の一節から明らかとなっている。その一節とは2009年朝貢外交といっても良い小沢一郎元民主党代表の中国訪問である。数字だけ押さえれば国会議員は民主党143人、総勢630人の訪中であった。
「小沢は、国際的な東アジア統合の流れに合わせる形で、鳩山政権の「東アジア協同構想」や今回の新冊封的な大訪中団を実施してきた。対米従属の遺構に使ったまま、世界多極化への大転換に気づいていない多くの日本人から見ると、小沢の中国・アジア重視の戦略は、不可解な「媚中」や危険な「日中同盟軽視」に見え、小沢は「売国奴」に見えるだろう。しかし米国は経済と金融財政が急速に悪化し、改善策もほとんど失敗しており今後数年内に財政破綻やドル崩壊を引き起こす可能性が高い…」

著者はこう論じたうえで“米国は覇権国を放棄したい”と結ぶ。実際に世界は多極化している。2013年には多くの国で大統領選が行われる結果によってはより混沌とする可能性もある。同時期にさまざまな国で問題が発生すればNATOだけで問題を解決することは困難であろう。しかし中国にすがるような考え方は如何なものかと思う。尖閣問題が“朝貢外交”の翌年であったことを失念してはならない。

これから活性化するであろうひとつの考え方を学ぶには良い一冊ではないか。批判読みも大切である。

 

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