お金の流れが変わった! (PHP新書)

新書であるが中身が濃いのでエリア分類しながら考察を深めたい。

 中国の成長を目にしない日はない。普遍化しつつあり普通の動きなのであろうが「車用鋼板の海外生産倍増・13年国内抜く 高級品の需要拡大」(1/27 日経)の記事には「ついに来たか」という思いがつのる。鉄鋼各社は、国内工場は老骨化設備の閉鎖も検討されており地方経済の打撃は大きいだろう。製造業は加速的に「海外移転」することになる。移転先は中国を始めとしたBRICsなどとの合弁企業が主流であろう。

 EUや米国などの景気はあまり芳しくない。よって中国は内需比率を上げている。高速道路や新幹線などのフルスピードの開発状況はメディアなので見聞きする。経常黒字国家とはいうもののどんな【仕掛け】があるのかと常々考えていた。本書はその答えの一つを教示してくれたのである。

「中国では土地の私有が認められておらず、すべて国有地、つまり共産党の所有である点も、経済政策をやりやすくしていると言っていい。もっとはっきりいうと、ある場所に道路や鉄道をつくろうと思い立ったら、代替地は用意するにしても、なんの苦労もなしに土地を取り上げることができるのだ。
 そのスピードは、日本のような民主主義国家とはくらべものにならず、農地だろうが政府の一存ですぐに商業地に転用できてしまう。そうすると土地に値段は何倍にも上がり、それを民間企業に貸し出せば、政府は苦もなくインフラ整備の費用を捻出できるのだ。まさに「打ち出の小槌」を持っているようなものなのだ。」
また「中国ではこの収奪した土地の差益が税収を上回っており、これが増税なき社会・産業基盤の構築に回っている。増税や国際で公共投資を普通の国とは際立った違いだ。土地バブルはこうした政府の「隠れた収入」を増加させるので、為政者の多くが痛痒を感じ無い危険な仕掛け(麻薬)になっているのだ」とも述べている。

この【仕掛け】はすごい。日本でも政治家の情報により先回りした土地の買い占など噂は聞いたことがある。しかしこの国は国家規模での地上げ、売却益、更に運用益もついてまわるだろう。またこうした計画経済モデルをミャンマーなどへ輸出しているのだ。著者は“資本主義は富を産み出すが、その富が人々に一様に行き渡ることはない。富は偏在するというのが、産業革命以来変わらぬ資本主義の姿なのである”と述べている。これはまさに“真実”である。富を有する片方の偏在者は行政府と極めて近い一部のものに過ぎないと思われる。政治を司る人にとっては、民主主義より好都合であることに疑いない。そのうえで“いつかなれるかも知れない”という希望を持たせておくことが社会を安定させるのだろう。
 
 しかしこの仕掛の継続は当然のことながら“情報閉鎖”と“投資価値”という2軸が必要となる。リーマンショクで悪者扱いされた米国連邦準備理事会 元議長 グリースパンが「謎と読んだ金利上昇なき安定成長は、中国の低賃金によるディスインフレがもたらした。中国で農村から都市への労働移動率がピークを超えればインフレ圧力が顕在化するとも予言していた」2011/1/25日経は述べている。現在インフレは加熱し始めている。情報閉鎖はすでに数万人単位でwebをチェックしている。この現実は“異常”としか言いようがない。更に成長を支える「生産年齢人口」はあと5年でピークアウトを迎える。こうしたことは“瓦解の可能性”を秘めるのではないか。

  “弱い内需”と“強い外需”というアンバランをではあった。しかし95年以前であれば公共投資などによりバランスを保つことができた。また外需は米国やEUであった。これからの外需は中国を始めとした新興国需要なのである。この新興国の不安定性は“アジア通貨危機”などで明らかとなっている。

 TPPや消費税増税などさえ未だ前進しない。ともてイギリスをモデルとした国家体制であるとは感じ得ないのである。接する人々からは未だ危機感を感じ無いのもまた現実である。就職を控える子供を持つ身ではある。しかしいまある現実は過去の自己の反映なのだ。例えば人の評価は国内でなくグローバルな視点で評価がなされる。クリエィティブになれば一層その傾向は強まるのである。1993年からこの現状は始まっている。これが通常だという認識を持つべきだろう。

政治システムや債務が問題であることはいうまでもない。S&Pの格下げも大きな問題である。また“新興国の変異”が我々に与える影響も計り知れない。いかに“生き残るか”を真剣に考える時がきている。それに対してBRICsは次にような行動に出ている。

「 IMFが発行したSDR(特別引出権)に強い興味を示したのが中国。外貨準備高のドル偏重を是正するチャンスと考えたのか、すぐに五兆円引受を発表。さらにロシアやブラジルもそれぞれ一兆円ずつ引き受けたからIMFの手元には七兆円が集まった。いわばこの動きは、ドルに変わる新しい通貨誕生の可能性を模索するものだったと言えるだろう。なにしろBRICs四カ国のうち中国、ロシア、ブラジルが米ドル債権よりもSDRを選んだのだ」

不安定要素を抱えながら前向きなBRICsとTPP協議に参加すらできない日本。この違いが10年後どうでるのだろうか。

 

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