成熟日本への進路  波頭 亮

On 2011年1月7日, in 書評, by admin

成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ (ちくま新書)

著者は斬新なエコノミストとして著名である。本書は現状分析 ビジョンと提言 手法の提案にて構成されている。ビジョンは“手厚い再分配”である。

結論を先取りすれば“手厚い再配分による福祉社会”は如何なものかと思う。あまり現実的ではないようにも感じている。直接給付により安心が得られる社会には倫理感が求められる。果たして今の日本にそうした倫理が可能なのか。医療関係者は生活保護(以下生保)に対し、再び社会に復帰できるように治療を施す。しかし本人に“治したい”“復帰したい”という思いが欠如していることが多いらしい。詳細は割愛するが医師や看護師、また薬剤師及びそれに関わる事業者が述べた話だ。突起した例とは思えない事例を他でも見ており一定の割合がある話しだと思っている。

【再分配】賛成は“やさしいこと”のように感じやすい。しかしその先はどうなっていくのだろうか。本社は【英語】、役員候補は世界中から抜擢し始めている。いま求められるのはやさしさでなく【厳しさ】ではないのだろうか。東大教授である玄田氏は『苦しい状況を打開するのは昔も今も“勉強”すること』だと述べている。政治や社会の試行錯誤を経験とし次へ繋げなければならないのだ。

著者の再分配には賛成しかねるのだが、日本のおかれている現状分析は興味深く読める。経済成長率には基本公式がある。

 経済成長率=【労働時間の増加率】+【資本ストックの増加率】+【技術の進歩】

労働時間の増加は一人当たりの労働時間×人数である。これが顕著にあらわれているのが中国である。さて日本はどうなのか。著者は次のように述べている。

『日本は年間1772時間で主要5ヶ国の中で1792時間のアメリカについで2番目である。かつて日本がトップに輝いていた90年代初頭までは海外から日本人は働きすぎとの批判がでるくらい長時間働いていた。1985年には日本は2100時間….95年には約200時間も減って年間約1900時間になった。これは休日に換算して25日分である…』

未だEUと比較すれば日本の労働時間は長い。ドイツに至っては1400時間である。これは短時間労働で付加価値が得られるか否かの違いである。胆略的に言い換えれば走りまわったからと言って数値が取れるとは限らないと言うことだ。
著者は生産人口の減少から以前の労働時間に戻すことはすでに不可能。成熟化社会なのだからという提言なのだ。しかし私は玄田教授の考えをもとに社会を再構築すべきではないかと思う。個々の付加価値力を上げ社会全体の能力アップを計る。時間あたりの密度を上げるということだ。厳しいことではある。しかし超えなければ留まることすら困難なのではないか。

 

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