蟻族  筆者 廉思 監訳 関根謙

On 2010年12月20日, in 書評, 雑感, by admin

蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ

高学歴者、就職難問題についてフィールドーワーク調査を論じた一冊である。しかし本書は、国内問題を論じたものではない。中国、就職難問題を論じたものである。本書は未就職や大学院への進学が困難となった高学歴未就職者についてのリサーチ結果と論評また蟻族の伝奇を掲載している。中国の実態に近づくことができ、興味深く読める一冊である。

 中国は農民が都市部へ押し寄せること、急激に大学を増設したことなどにより、大卒新卒者は625万にも及ぶ。日本の新卒者数は 大学 55万4千人(他 短大 6万7千人・高専 1万人・専修学校 21万3千人・高卒 17万1千 合計 1.015.000人)となる。中国は約12倍近い大卒新卒者を抱えている。日本は最終的に90%の大卒者は就職が内定する。とてもではないが中国は世界2位のGDPで甘んじていることは困難であろう。いくら2桁に近い成長をしていても雇用を吸収することなどできるはずはない。

 著者はこうしたグループを“社会的弱者集団”と位置づけている。

『出稼ぎ農民やリストラ労働者、農民と比較して「大卒低所得群居集団」には多くの異なる特徴がある。それらの人々は高等教育を受け、職業の理想も高く、民主と平等の意識に目覚め、都市生活への適応 能力も高い。しかし同時に、教育条件や家庭の制約から、総合的な素養や競争能力で、同年齢の都市の青年や出身家庭の良い青年にはるかに及ばず、それが大きなコンプレックスとなっている。この集団の多くの人が、大都市は「経済的には受け入れるが、社会的は排斥する」というシステムが自分に対して不公平であると既に認識しており、そうしたことで骨身にしみるほど社会の不公平を味わっている』

 一流大学合格と親の所得という国内事情と一致が見られる。正負どちらも連鎖しやすいという事である。国内ではこうしたことが派遣問題などへ繋がり、何か“あきらめ”の印象を感じてならない。蟻族の暮らしは、衣食住すべてが国内では考えられない環境下にある。なぜなら住居といっても簡易宿泊所のような共同ベッドである。更にトイレは屋内になく公衆用を使用するといった状況なのだ。しかし本書を通じて感じる蟻族は苦しいながらもあきらめず希望を見いだし生きているように思えるのだ。

『….数日前ある友人と話していたら不意に、もう2009年なんだ、と気がつきました。また一年が過ぎたのです。前はいつも自分なんてちっぽけな若造だと思っていましたが、急に自分が大人になったような気がしました。….でも今の境遇は三年前に比べるとずいぶんよくなりました。少なくとも給料は転職するたびに良くなっていますから。そう考えると、そんなにがっかりすることもないかな』

 本書から感じられる劣悪な衛生環境からこうした希望を持てることに力強さを感じてならないのである。自分に言い訳をすることなく置かれた環境下から希望を見出すギャップを埋める努力を続ける。実に素晴らしいと感じる。何かと問題の多い国家であるがこうした人は素直に応援をしたい。

 

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