通貨で読み解く世界経済―ドル、ユーロ、人民元、そして円 (中公新書)

 経済を含む社会生活全般を考えたときに、通貨問題は切り離すことはできない。実質的影響はもちろんメンタル面も無視することができない。これだけ輸入物資で生活をしていれば一般庶民にとり円高メリットは大きいはずだが中々そうはならない。
こうしたことから通貨は国内に限らず世界的な景気を左右する。よって経営と通貨問題は切り離せない関係性にある。イラクとの戦いは原油の決済をユーロに変えようとしたことが一因であるとも言われている。FTA,TPPなどにも影響力を示し、起こりうるすべてのものごとに深い関係性にある。本書はこうした通貨に関する基礎知識を得られる貴重な一冊である。

通貨問題として最も考えなければならないのは基軸通貨としての今後の『ドル』のありかたである。ギリシャやアイルランド、更には今後発生するかも知れないスペインの問題により『ユーロ』と『ドル』の関係性は若干変わったと思う。基軸通貨としてのドルについて著者は次のように述べている。

『基軸通貨としてのドルの特権は、対外債務を膨らませる諸刃の剣であり、中国を始めとする東アジア諸国や中東産油国などとの間に大幅な国際収支不均衡を生む温床となった。
この国際収支不均衡をファイナンスするため、アメリカに巨額の資金が流入しそれがアメリカの長期金利を押し下げる要因となった』、

 結果としてこうしたことがリーマンショックの一因に結びついている。著書は『今回の金融危機は国際金融システムの欠陥に起因するのか、それとも単にアメリカのマクロ政策運営の失敗によるものだったのか、それを検討するうえで、ドルという通貨の特殊性は無視し得ない』と論じている

 バブルが一国のマクロ政策の問題でなく“通貨”と深い関係性にあるとするのならIMFまたは一種の世界中央銀行的な存在が必要であるようにも感じる。こうした問題意識の元で本論を読み進むのだが、世界金融危機 基軸通貨ドル ユーロ 東アジアと人民元 円高 国際金融 と理解を深めるセグメントでまとめられている。

 国内が生活やビジネスの基板ではある。しかしグローバルな視野が今ほど求められているときはないように思う。本書では【グローバル・インバランス】という言葉が良く使われる。その意味は【世界的経常収支不均衡】である。過去を振り返れば、いささか日本には耳の痛い言葉ではある。しかしこの視点で郵政や農業などの問題を考察しなければならないのではないだろか。俯瞰して考察すれば単なる問題の先延ばしに過ぎないことが多い。

 これを自らの文脈に置き換え考察すると同様の問題を抱えているように感じてならない。
自らも先を見据え俯瞰して考え行動しなければならない。
 国際問題を考える教科書的な一冊だった。

 

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