ユーロ――危機の中の統一通貨 (岩波新書)

アイルランド、ギリシャとリーマンショック以降、世界を揺さぶる通貨であるユーロがどのような理念や思いで成り立っていったのかを論じた一冊である。こうした著書はルポライターがマーケットの視点から述べたものと、アカデミックな視点からの議論2通りあるように思う。本書はヨーロッパ経済論、経済統合論が先行である中央大学経済学教授が論じた一冊である。

統一通貨ユーロが誕生して約12年であるが、東アジア円通貨圏構想は1990年頃から論じられていた。APECもその一躍を担っていとも言える。さて通貨統合までの苦しい詳細は本書に譲るが、当然のことながら強弱入乱れるこうした統合において、強国にネガティブ要素があれば当然のことながら纏まることはない。ではなぜユーロではそれが可能だったのか本書では次のように述べている。

『イギリス・サッチャー首相とフランス・ミッテラン大統領はドイツ統一に反対したが、ソ連の再強化を警戒したアメリカは強く統一を支持し、ソ連のゴロバチョフ大統領も統一に反対しなかった。米ソが支持することになれば、イギリス、フランスが阻止するのは不可能であった。不可能とわかると条件闘争になる。
 EC諸国はドイツ統一を無条件に承認し、東ドイツを即ECに迎え入れ、また西ドイツの中央銀行制度を模範に通貨同盟を組織するという約束をした。その代償としてドイツはマルクを放棄し単一通貨を採用する。マルク法規とドイツ財政のECレベルでの規制によって一人歩きを封じる』と述べられている。

 欧州のドイツかまた欧州を離れて単独で行動するのか。統合され巨大化したドイツが中
欧州の支配権を確率しようとする可能性の芽を摘んでおきたいというのがECの目的でも
ありビジョンである。その思いが東ドイツ即加入や統一通貨において西ドイツの条件をの
むことにより初めて可能かなった。

 ユーロ成立が如何に困難であったかを本書から知ることができる。確かにギリシャ虚偽記載などの問題もある。しかし経常赤字が3%内などの条件を達成するため、社会保障費削減など国民一体となって努力をしているのだ。ユーロへ加盟しなければ小国として埋没してしまうという危機感がそうさせるのだろう。
 日本の置かれている環境も同様ではないか。TPP加盟をユーロ加盟として考察すれば良い。世界のルールに溶け込めてはじめて国内ルールは成立するのではないだろうか。グローバル・インバランスを日本は軽視していると感じざるを得ない。問題の当事者であるがグローバルの視点で問題を直視していないのである。先般も述べたように大卒就職率54%のトップ報道の経済面ではインドをはじめとしたグローバルな新卒雇用の拡大が報じられているのである。
 
ユーロ加盟国のような埋没しないための考察と具体的行動が我々に問われているのではないか。

 

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