ダメな議論   飯田泰之

On 2010年10月18日, in 書評, by admin


ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)

議論は楽しく成果が得られる対話が数多い反面、不毛だったなあと思わせる時もある。不毛なミーティングは時間の浪費であり、会食は残念な時間を共有した気持ちとなる。成長を可能とし価値ある時間を共有する為にはどうしたら良いか。自らがどう変わることで価値ある時間を過ごすことを可能にするのであろうか。そんな思いから本書を手にした。

著者は経済学者である。経済学を視点に誤った議論を、論理的に見抜くノウハウを提供しているのである。基本的に本書における議論は対話でなく、論考などの議論であることを示しておきたい。少ないながらも対話について示しているのが『コールドリーディング』である。コールドリーディングは説得術のひとつの手法である。興味深いので本文を引用して見る。

基本ステップ 
①  ラポール(肌があうような感覚)を深める ② ストックスピール(誰にでも適応する対話)で信頼を深める ③ 悩みのカテゴリーを探る ④ 悩みの核心に迫る ⑤ 未来の出来事を予言する 
怪しげなこの対話手法は宗教家や占い師の手法なのである。しかし“対話の活性化”や“相手を知る”ときに十分に活用可能である。信頼関係を築かなければならない組織やチームのリーダーには大いに参考になる。

実際に議論が深まらない時を思い出しながら読み進んだ。議論のうえで意味が無いと感じるのは、あいまいな抽象化である。原因のひとつは定義やエビデンスがあいまいなことにある。こうした形式知の共有は議論の可否を左右する。本書は論考でのチェックポイントとして次の5点をあげているのだが、対話においても同様であろう。

【チェックポイント 1】 定義の誤解・失敗 
【チェックポイント 2】 無内容または反証不可能な言説
【チェックポイント 3】 難解な理論の不安定な結論
【チェックポイント 4】 単純なデータ観察で否定
【チェックポイント 5】 比喩と例話に支えられた主張

論考であれば読むに値しない、または採用しないということになる。対話の時が困りものなのだ。自己の文脈に置換えているが主観多く普遍的でない・形式知の解釈が違うなど良くあることである。自らに置き換えても多々あるだろう。議論すべき相手を選ぶということが大切なのだろう。議論の積重ねは、暗黙知を形式知に変換するトレーニングとなる。また形式知化することで知をより深めることになるのだ。

実務的に捉えれば、組織内の議論が活性化するbaの形成は成員が成長する機会と言える。こうしたbaの形成を深め有意義な議論が可能となれば組織は成長すると考察する。
自らを省みる意味でも価値ある一冊だった。

 

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